未来の価値

第 1 話


テロリスト、ナイトメアフレーム、毒ガス。
事故を起こしたトラックの運転手を助けたかっただけなのに、どうしてこんな目に合わなければならないんだと思わず神を呪ったが、その日、幸運と不運の比率は同じだという話は本当なのだと知った。
信じられないような不運の中で、信じられない幸運が起きたのだ。
それは、7年前に離れ離れになった友人、枢木スザクとの再会。
今日の不運を全て消し去るほどの幸運だった。
そう、スザクとこうして無事に再会するための試練だったというならば、あの程度の不運はどうということでもない。
残念なのはスザクがブリタニアの軍人となっていたことか。
ブリタニア軍に入ったイレブンは、例え名誉と呼ばれても、その実態は使い捨ての駒。人の形をした道具。家畜以下の存在だった。
理不尽な戦場に武器を持つことも許されず駆りだされ、無意味に死んでいく。
いくら運動神経の塊で体力馬鹿のスザクでも、そう遠くない未来にその人生を終えることになるだろう。軍の中で生き残れる確率は・・・恐ろしいほど低い。
毒ガスのカプセルが開き、中から出てきた少女の拘束を解き、スザクに現状の説明を求めながらも、ルルーシュの頭脳はスザクをどうやってブリタニア軍から退役させ、自分たちの手元へ取り戻すか、そのプランを考え続けていた。

一日でも早くスザクを取り戻す。
そして、ナナリーと共に幸せな人生を歩ませる。

一番手っ取り早いのは、金でスザクを買う方法だ。
一兵卒である彼らの死亡率は非常に高く、死亡したとしても、原因などろくに調べられることもない。基本的に彼らの生死はドッグタグだけで判断される。死亡したという報告と1枚のドッグタグ。それだけで彼らの死は確定し、鬼籍に入る。

そこで横行しているのは、人身売買。
ブリタニア軍の高官達が、秘密裏にイレブンを売買しているのだ。

と言っても臓器売買などではなく、退役を希望するイレブンを死んだこととし、ブリタニア人の富裕層へと奴隷として売るのだ。
一度軍に入れば退役は不可能。
地獄のような軍に居続けるぐらいならと、自らの死を偽り、衣食住だけが保証された場所へと向かうのだ。人としての扱いなど受けないだろうその場所は更なる地獄だと思うのだが、軍にいるよりはマシだと言われている。
買う側の人間も、地獄を体験したイレブンは従順で、僅かな食事と狭い部屋、最低限の衣服を与えさえすれば給金は不用、そのうえどれほどの暴力を与えたとしても軍にいた頃よりはましだと耐え続けるので、嗜虐心も満足することが出来るのだ。
そんな彼らは記録上死者であるため、二度と表に出ることは無い。

・・・それは自分も同じか。
名前を、身分を、過去を墓の下へと埋めて生きている。

スザクを秘密裏に手に入れるためにかかる金額、その方法と伝手。
クラブハウスへ戻ったら、徹底的に調べあげなければ。
そこまで思い至った時、別の軍人がここへやってきた。
ブリタニア人、それも身なりが良く、見覚えもある顔がそこにいた。

---クロヴィスの親衛隊。

スザクは親衛隊に駆け寄ると、毒ガスではなかったこと、そして俺が巻き込まれた一般人で、テロリストではない事を説明した。だが、そんな事話した所で意味が無いことにスザクは気づいていなかった。

幸運がくれば、次は不運か。

この少女が猛毒であることに変わりはなく、テロリストかどうかも関係なく、俺の処刑も確定したこの状況に気づいていないのか、スザクは上官の命令に従わなかった。
銃を差し出され、それで撃てと命じられても、スザクは否と答え、こちらを振り向いた。
その顔は、この場に不似合いなほど穏やかな笑顔で、本気でこの状況がわからないのか!?と血の気が引いた。この状況では、親衛隊全員を打ち倒すか、その銃を取り俺を殺すかの2択しか無い。
だが、そのどちらもスザクは拒否した。
そして、当然過ぎる結果として、スザクは処分されるのだ。
親衛隊の銃口が、スザクの背中につきつけられる。
そして、銃声が鳴り響いた。
命令を聞かない駒は不用。
何より、見てはいけない物を見た。
元々、この親衛隊はスザクに俺を殺させた後、スザクを始末し、スザクにテロリストと内通していた汚名を着せ、ブリタニアの一般人を殺害したため、自分たちが処分した、とでも報告するつもりだったのだろう。
あまりの事態に全ての思考が停止していたと思ったのだが、唯一動いていた傍観者の思考が、そんな結論を他人事のように弾き出していた。それはほんの瞬きほどで行われた思考。その間、まるでスローモーションを見ているかのようにスザクの身体が地面に崩れ落ちるのを見ていた。
言い換えれば、傍観者以外は停止した思考。
あまりにもショックが強すぎて、倒れ伏したスザクから目を離すことが出来なかった。

「学生くん、次は君だ」

親衛隊が銃口を向けながらこちらへ近づく。
確実に仕留めるためにと、カツリカツリと靴音を鳴らしながら距離を縮めるのを、まるで他人事のように見ていた。
スザクはピクリとも動かない。
・・・ああ、スザクが死んでしまった。
俺のたった一人の親友まで。

「恨むなら、自分の不運を恨むことだ」

ああ、本当だよ。
幸運の後の不運ほど、きついものはない。
天国から地獄に落とされるというのは、こういうことなのだろう。
生きていたことを喜んだ次の瞬間、その命を奪われてしまった。
この、男に。
呆然としたまま、近づく男に視線を向けると、ニタリと気色悪い笑みを浮かべた男が銃口をこちらに向け、引き金に指をかけた。

「やめろ!殺すな!!」

瞬間、拘束が解かれた少女が、その体を盾にし凶弾から俺を守った。額を撃ち抜かれ、一瞬で力を無くしたその肉体は、地面へと崩れ落ちる。頭を撃たれた事で即死した少女からは、止めどなく鮮血が溢れ出て、その場に血溜まりを作っていった。

血に濡れたその姿に、赤く広がる血液に、俺の記憶はフラッシュバックを起こした。
それは幼い頃の光景。
ナナリーを守るように倒れた、血まみれの母。
足を討たれ、恐慌状態に陥ったナナリー。

死。

それを自覚した瞬間、停止していた思考が動き出した。

「ふん。できれば生かしておきたかったが。上にはこう報告しよう。我々親衛隊はテロリストを見つけ、これを殲滅。しかし、人質はすでに嬲り殺しにあっていた。どうかね?学生君」

にたりと笑う男に怖気が走った。
銃口は目の前、逃げ出すことは不可能。
せめて後ろにあるテロリストのトラックが動き出せば、その隙を突くことも出来ただろうが、トラックは沈黙したままだった。
この状況を中で伺っているのか、あるいは意識をなくしているのか。
どのみち、使えない。
向けられた銃口は多く、逃げる手はない。
打つ手なしだ。

俺は死ぬのか、何も成さず、何も守れず、仇も取れずに
------ナナリー!!

死を覚悟した瞬間。
死んだはずの少女に腕を捕まれ、不可思議な幻を見た俺は、ギアスという名の力を手に入れていた。
絶対遵守の力。

だから、俺は。

笑いながら立ち上がった俺に、親衛隊は気が違ったのかという眼でこちらを見た。
・・・つまり、動揺し引き金を引くのを躊躇った。
それで十分だった。

「どうした、撃たないのか?それとも気がついたか?撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだと」
「何!?」

先程まで怯え、震えていた人間の豹変。
開き直ったのとは違う、威厳と気品に溢れた姿と声音。
何が起きたのか知りたくなるのは人の心理。
なにせ自分は銃を持ち、相手は丸腰なのだから、何があっても対応できる。
だからこそ、引き金を引けず、こちらを見ているしか出来ない。
その油断が、生死を分けるというのに。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。お前たちは・・・」

死ね。
そう命じようとした時、視界の片隅に入ったものに驚き、とっさに命令を変更する。

「我に従え!」
「「「イエス・ユアハイネス!」」」

全員が敬礼し、こちらの支配下に入ったことを確認してから、俺は駆け出した。

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